鉄輪とサード

ビデオレンタルに行って日本映画のコーナーを見ていたら、新藤兼人監督の『鉄輪』があり、フラワー・メグのものうい表情にひかれた。この映画は1972年公開ということだが、実際に見た記憶はない。フラワー・メグは深夜番組にやや裸に近い姿で出て歌を歌ってい…

運動会の現在(いま) 歌のこと

先日、やや季節外れの小学校の運動会を見る機会があった。姪の男の子が出るので、それを見物に行った。 運動会には音楽がつきもので、リズミカルで元気の出る音楽が流れる。いろんな音楽を聴きながら徒競走や綱引きなどを見た。創作のゲーム、YOSAKOIソーラ…

日比谷公園と帝国ホテル

ウィークデー、朝の日比谷公園は、静かで通勤前の人々が新聞などを読みながら一時を過ごしていた。 と思ったら「俺は金もってねぇ」と野太い声が聞こえた。ケンカかと思ったら、そうではない。しかし、 噴水前の背後から声が続く。振り返ってみると、警官が…

上にあるもの シャンデリアとタワー

あるホテルのシャンデリアと札幌駅前のタワー。たまたま居合わせてだけなのに、印象に残る景色がある。 会議などに飽きてきたら天井を見ることにしている。会議にはカメラとボイス・レコーダーを持ち込むことが多い。ホテルはたいていの場合、下より上が豪華…

お気に入りのカバーとわが家の庭と月

気に入っているCDのカバーとわが家の庭と月を紹介しよう。 1974年に『一触即発』を出した四人囃子の佐久間正英は、2014年1月16日に死んだ。ボブ・ディランは最近コンサートに行った。ハービー・ハンコックは大変な才人で、尊敬している。 浅川マキも亡くなっ…

ロックバーに二日続けて行った。

仲の良い同年代の男4人と居酒屋で飲み、そのあとロックバーに行ったら、携帯と免許証を落としてしまい、その次の日も夜行くことになってしまった。 車で行ったので、飲まなかったが、札幌は日中、25℃を超える陽気で、夜も18℃くらいあって、たくさんの人々が…

エレベーターで聞いた日からずっと

エレベーターの天井からあの声が突然おりて来た。ディランの咳ばらいのように、しわひとつない。思わず上を見上げた。LEDの明かりがあるだけで、誰も呼んでいない。空耳はこれだけではなかった。ディランのライブで、頭を撃ち抜かれて以来、不思議なこと…

最初のゼニガタアザラシの殺し方

2年間におよぶ会議が終わると、Kはどっと疲れが出て、頭が空っぽになった。気がついてみると、何も事態は変わっておらず、まだゼニガタアザラシの殺し方さえ学んでいない。このあと、2年間で10頭の成獣メスを捕殺する。そのあとは好きなだけ獲ってもいいの…

原子力戦争

1978 年ATG制作の黒木和雄監督作品。原作は田原総一朗の反原発小説。東日本大震災で被災し停止中の東京電力福島第二原発の映像が生々しい。主演の原田芳雄が施設の中に無許可で入り、制止されるシーンもある。 ストーリーは、原発事故を察知した技術者の口を…

遠くから聞こえる声 風の中で待っている

3.11から3年経った。何も気にしないで歩いていたら、その当日、東京の空は晴れ上がり、ブルーに染まっていた。 浜松町の国際貿易センタービルの40階にある展望台に登り、眼下の東京湾、隅田川の河口を船が走る。 鮮やかな波がまぶしい。3年前のあの日、あの…

冬のR港

重いS港というタイトルの小説があった。S港というのは長崎県佐世保港だ。軍港であり、背後に朝鮮戦争や米軍の存在があったと思う。井上光晴はとてもムードをもった作家で、かなり偽りもあったらしいが、自分の世界をつくり上げ成りきることに美学をもって…

ニシンのいない港

春のニシンは北海道の沿岸に季節感を運んでくる。獲れないと大変寂しい。網外しや荷下ろしをする人のいない港はすこし空虚だ。ニシンが来なかった間の長い年月を思うと、ただならぬものを感じるが、翌日には姿を現すのもニシンのいつものパターンに違いない…

カニづくし

毛ガニを買って食べる。その行為はなかなか厳粛で、おごそかなものだ。第一に手間がかかる。りっぱな毛ガニを食べやすいようにバラす必要がある。その前に、毛ガニの顔や甲羅をしっかり見て、中身の旨さを創造する時間もうれしい。物言わぬ毛ガニは、黙って…

ある会議の風景と誕生日の花束

ある会議に出ていろいろな道具を使って記録しようとしていた、まさにその時、自宅には誕生日を祝う花束が届いており、両者にはどんな関係もなかったが、共時性の中で二つの事が起きた。 会議場の机の上にある物はすべて私の物に他ならなかったが、自宅の花束…

大江健三郎「晩年様式集 イン・レイト・スタイル」

昨年の秋に出され、書店で割合早く買ったのだが、全然読むヒマがなく、遅ればせながらようやく年を明けた2月中旬になって読み終えた。ノーベル賞を受けた大江さんは、人生の着地点としての晩年の生き方を探求しており、「最後の小説」あるいは「後期の仕事(…

哀愁のサッポロファクトリー

札幌市がバブル経済の中で再開発がどんどん進んでいた1980年代から1990年代にかけて、その象徴だったのが、豊平側左岸と創成川東側の旧永山邸周辺の開発。ホテルとマンションが建ち、それぞれ成功した。都心部から近距離にあるにもかかわらず、創成川東側の…

札幌の雪道

今年、札幌の北部は異常な寒さに見舞われ、年末から年明けにかけて毎日雪が降り、2月の一番厳しい時期を前にすでに根雪がしっかりと固まってしまいました。 この1月4日に亡くなった、いなむら一志がやっていたコンサートやアルバムのヒート・アイランド、熱…

ベックとディラン

1週間のうちにベックとディランを札幌で見ることができる幸運に恵まれた。 ロック・バーのマスターに話したら、ディランは最後かもしれないから行くけどベックはパスと言われた。ディランはスタンディングなのでどうかなと思った。前回来た時の公演はあまり…

モッくんの彼女2

「美人とか、ブスとか関係ないよ。モッくんに彼女ができた、そのショックに比べればなんでもないって」 「嫉妬かい、アンタ」 「可愛がっていたペットに逃げられた気分ね」 彼女付きのモッくんになってしまったモッくんは、とても遠く、クールだった。マリと…

モッくんの彼女1

あのモッくんに彼女ができてマリは驚いた。すぐにサヤに教えようとしてメールしかけてスマホを閉じた。明日JRで会うからその時直接話したくなった。 マリは、サヤといっしょにモッくんを弄って大笑いしたことを思い出した。JRで通学している間、モッくんはペ…

ガニコとマチ子、ヨシコ

三人の女が気になり出してかなり経った。ガニコは、相変わらずすらっと脚を強調しながらガニ股の角度を広角に広げていた。マチ子ちゃんは、落ち着きはらい、ふくよかさをたたえている。ヨシコは、隙のないファッションで、着飾っていた。ガニコは、しっかり…

ガニ子と玉子

毎朝見かけた玉子に代わってガニ子がホームに現れた。彼女は、いわゆる独身OLなのだが、バンツをはくことはなく、スカート派だった。背は高く足はすらっと伸びていたが、ガニ股で纏足の中国女のようにトンガっていた。バッグと袋を持ち、腕を組んで歩く彼女…

JR十人斬り

混み合う改札口を抜けると、男は払い戻しの客を誘導していたJR駅員に「テンチュー!」と言いながら斬りかかった。二本線の入った帽子を被った駅員はその場に倒れた。助けようとして近寄ってきた年輩の偉そうな駅員には、ダンビラではなく、素早い挙手を二…

比率ではなく、実数で見ること

ある本を読んでとてもためになった言葉。 昔見た勝新太郎、田村高広主演の映画『兵隊ヤクザ』を思い出した。若い士官候補の横暴に田村が「軍隊はな、メンコの数(階級)じゃねぇんだ。てめぇ軍隊入って何年だ」 軍隊では私闘は禁止されている。やれば即営倉…

もう一つの黙示録3

OL相手のグル・インでは、「役人様々で、うちの人間なんかへいこらしてますよ」「電力会社なんて役所に近いよね」「うちの取引先の社長、電力会社から勧められてオール電化にしたら奥さんから離婚話だってさ、かわいそう」「原発は絶対嫌。電気は必要だけ…

もう一つの黙示録2

その後、電力会社の仕事が広告代理店を通じて入ってきた。結局、なんだかんだ言っても、民生用の200ボルト需要が知りたいというのは、一つの大義名分であって本当は原子力発電に対する意見を知りたいのは、火を見るより明らかだった。すなわち、企業イメージ…

もう一つの黙示録

原子力について聞かれた私は、正直に答えた。あんな危険な技術はダメだと。会社の専務は驚き、では電気が供給できなくなってもいいのか、と正してくる。へえー、そうですか。そんなこと考えたこともないこちらは、すっかり恐れ入ったフリをして切り抜けよう…

黙示録3

講師は完全に生き絶え、ミンチ状態に近かった。男たちは「こういう場合は、いつも殴り殺しだ」と口々に語った。名誉が守られたことに安堵していた。村の役人や組合の職員は、すでに知らぬ顔を決めて姿を消していた。車も運転手もいなかった。マキリの男は、…

黙示録2

男は、さきほどの善良な妻の夫だった。何も言わずマキリで講師のノドをかき切った。動脈が切れて大量の血が噴き出した。それにしてもみごとな切味で、その両刃の小刀は、後々村の男たちの語り草となった。 惨劇の現場に村びとが集まってきた。男たちが前に出…

黙示録1

一人のコンサルタントが村に招かれて為になる話をすることになった。漁業を生業にする村で、組合の記念日だった。コンサルの中年男は、集まった漁師と妻たちを前に「この世で一番大切なものは何ですか」と尋ねた。意味が呑み込めず黙っている村人に、詰問調…