原子力戦争

 1978 年ATG制作の黒木和雄監督作品。原作は田原総一朗の反原発小説。東日本大震災で被災し停止中の東京電力福島第二原発の映像が生々しい。主演の原田芳雄が施設の中に無許可で入り、制止されるシーンもある。
 ストーリーは、原発事故を察知した技術者の口を封じるため、心中と見せかけて殺された男女の遺体が浜辺に打ち上げられる。その女は町の有力者の娘だったが、東京で風俗嬢をしながら男に貢いでいた。そのヤクザのヒモ役が原田で、女の消息を探しに原発の町にやってくる。それに協力する左遷された記者が佐藤慶で、原発事故をスクープにして田舎町からの脱出を図ろうとする。そして死んだ技術者と新婚間もない妻が世界のトップモデルとして有名な山口小夜子。謎に満ちたポーズで原田を誘惑、最後には破滅に陥れる。原田を助ける死んだ女の妹が風吹ジュン。その兄で漁協組合長、次期市長候補が石山雄大。技術者の恩師で実は原発事故隠しに奔走する教授に岡田英次が扮する。
 謎の心中から始まるサスペンスは、事故がうやむやにされ、告発する者を闇に葬る原発の政治経済、権力の暴走を赤裸々に描く。特に山口と岡田がこの事件を後始末するために送り込まれ、原田を殺すワナをしかけ、佐藤の筆を黙らせる構図はその後、東日本大震災津波によって東電福島第二原発が爆発事故を起こし、炉心溶融のシビアアクシデントを世に問うまで続いた。その意味で先駆的な社会派映画とも言えるが、映像の美はさすがに黒木作品で、山口小夜子の周囲の風景とは一線を画したファッション、不思議な魅力が存分に味わえる。そしてその背後にある寂れた港町の朽ちた建物や漁船、美しい浜の風景がじっくりと映し出され、俳優陣もしっかりとした演技で、このサスペンスのリアルを先鋭化させている。他の黒木作品同様に後に残る映画の一本。