2014-01-01から1年間の記事一覧

『ルポ アトピー患者がつどう温泉 豊富温泉という福音』門脇啓二著(三五館)

・アトピー性皮膚炎や乾癬など重症患者たちから「救い」「聖地」と呼ばれる温泉が北海道の北の果てにある。長く北海道でフリーライター経験を持つ著者でさえ驚いた「知る人ぞ知る」豊富温泉。そこになぜ人がつどうのかを丹念に探ったルポ。 ・読むとアトピー…

加藤典洋『人類が永遠に続くのではないとしたら』と先行する3冊の本 〜東日本大震災・福島原発事故から遠くに投げられた思考のゆくえ〜

○『人類が永遠に続くのではないとしたら』加藤典洋(新潮社) 3.11後の世界をどう考え、どう生きるべきか。福島原発事故の衝撃と時代の変化に真摯に対決する評論。難解とされる著者が3年かかって蓄積した思考を遠くに向かって放り投げた。 その一部だけでも4…

白土三平『カムイ伝』と田中優子『カムイ伝講義』

現在、法政大学の総長を務める田中優子の『カムイ伝講義』が文庫で出た。単行本の時に評判が良かったのを思い出し、この機会に、読んで見ようと書店で買った。しかし、肝心の白土三平の『カムイ伝』は読んだことがあるのかと問うてみるに、連載していた『ガ…

ハンナ・アーレント

ハンナ・アーレントは最近、彼女を主人公にした映画の公開でたいへん話題となり、再び読み直す人も多いと聞く。アーレントは、言うまでもなく『全体主義の起源』の著者で、20世紀を代表する政治哲学者。その思考はハイデッカーの愛弟子として大陸哲学の系譜…

変わった映画 南部軍・ウィズネイルと僕

札幌駅北口の蠍座で『南部軍』という映画を見た。サブタイトルに「愛と幻想のパルチザン」とある。韓国映画きっての社会派と呼ばれるチョン・ジヨンが監督した1990年の韓国映画、157分という長尺。朝鮮戦争前後に韓国南部でパルチザン闘争を展開した伝説の南…

札幌駅北口周辺 広場と地下とお店

商業的な付加価値がないため、空間の美しさが一層引き立つものが確かにある。例えば、札幌駅北口の地下歩行空間がそれ。収容台数230台の駐車場を囲む広い通路は、昼間でも夜間でも人通りは少なく、人工的につくられた巨大な空間を構成している。多様な顔を持…

鉄輪とサード

ビデオレンタルに行って日本映画のコーナーを見ていたら、新藤兼人監督の『鉄輪』があり、フラワー・メグのものうい表情にひかれた。この映画は1972年公開ということだが、実際に見た記憶はない。フラワー・メグは深夜番組にやや裸に近い姿で出て歌を歌ってい…

運動会の現在(いま) 歌のこと

先日、やや季節外れの小学校の運動会を見る機会があった。姪の男の子が出るので、それを見物に行った。 運動会には音楽がつきもので、リズミカルで元気の出る音楽が流れる。いろんな音楽を聴きながら徒競走や綱引きなどを見た。創作のゲーム、YOSAKOIソーラ…

日比谷公園と帝国ホテル

ウィークデー、朝の日比谷公園は、静かで通勤前の人々が新聞などを読みながら一時を過ごしていた。 と思ったら「俺は金もってねぇ」と野太い声が聞こえた。ケンカかと思ったら、そうではない。しかし、 噴水前の背後から声が続く。振り返ってみると、警官が…

上にあるもの シャンデリアとタワー

あるホテルのシャンデリアと札幌駅前のタワー。たまたま居合わせてだけなのに、印象に残る景色がある。 会議などに飽きてきたら天井を見ることにしている。会議にはカメラとボイス・レコーダーを持ち込むことが多い。ホテルはたいていの場合、下より上が豪華…

お気に入りのカバーとわが家の庭と月

気に入っているCDのカバーとわが家の庭と月を紹介しよう。 1974年に『一触即発』を出した四人囃子の佐久間正英は、2014年1月16日に死んだ。ボブ・ディランは最近コンサートに行った。ハービー・ハンコックは大変な才人で、尊敬している。 浅川マキも亡くなっ…

ロックバーに二日続けて行った。

仲の良い同年代の男4人と居酒屋で飲み、そのあとロックバーに行ったら、携帯と免許証を落としてしまい、その次の日も夜行くことになってしまった。 車で行ったので、飲まなかったが、札幌は日中、25℃を超える陽気で、夜も18℃くらいあって、たくさんの人々が…

エレベーターで聞いた日からずっと

エレベーターの天井からあの声が突然おりて来た。ディランの咳ばらいのように、しわひとつない。思わず上を見上げた。LEDの明かりがあるだけで、誰も呼んでいない。空耳はこれだけではなかった。ディランのライブで、頭を撃ち抜かれて以来、不思議なこと…

最初のゼニガタアザラシの殺し方

2年間におよぶ会議が終わると、Kはどっと疲れが出て、頭が空っぽになった。気がついてみると、何も事態は変わっておらず、まだゼニガタアザラシの殺し方さえ学んでいない。このあと、2年間で10頭の成獣メスを捕殺する。そのあとは好きなだけ獲ってもいいの…

原子力戦争

1978 年ATG制作の黒木和雄監督作品。原作は田原総一朗の反原発小説。東日本大震災で被災し停止中の東京電力福島第二原発の映像が生々しい。主演の原田芳雄が施設の中に無許可で入り、制止されるシーンもある。 ストーリーは、原発事故を察知した技術者の口を…

遠くから聞こえる声 風の中で待っている

3.11から3年経った。何も気にしないで歩いていたら、その当日、東京の空は晴れ上がり、ブルーに染まっていた。 浜松町の国際貿易センタービルの40階にある展望台に登り、眼下の東京湾、隅田川の河口を船が走る。 鮮やかな波がまぶしい。3年前のあの日、あの…

冬のR港

重いS港というタイトルの小説があった。S港というのは長崎県佐世保港だ。軍港であり、背後に朝鮮戦争や米軍の存在があったと思う。井上光晴はとてもムードをもった作家で、かなり偽りもあったらしいが、自分の世界をつくり上げ成りきることに美学をもって…

ニシンのいない港

春のニシンは北海道の沿岸に季節感を運んでくる。獲れないと大変寂しい。網外しや荷下ろしをする人のいない港はすこし空虚だ。ニシンが来なかった間の長い年月を思うと、ただならぬものを感じるが、翌日には姿を現すのもニシンのいつものパターンに違いない…

カニづくし

毛ガニを買って食べる。その行為はなかなか厳粛で、おごそかなものだ。第一に手間がかかる。りっぱな毛ガニを食べやすいようにバラす必要がある。その前に、毛ガニの顔や甲羅をしっかり見て、中身の旨さを創造する時間もうれしい。物言わぬ毛ガニは、黙って…

ある会議の風景と誕生日の花束

ある会議に出ていろいろな道具を使って記録しようとしていた、まさにその時、自宅には誕生日を祝う花束が届いており、両者にはどんな関係もなかったが、共時性の中で二つの事が起きた。 会議場の机の上にある物はすべて私の物に他ならなかったが、自宅の花束…

大江健三郎「晩年様式集 イン・レイト・スタイル」

昨年の秋に出され、書店で割合早く買ったのだが、全然読むヒマがなく、遅ればせながらようやく年を明けた2月中旬になって読み終えた。ノーベル賞を受けた大江さんは、人生の着地点としての晩年の生き方を探求しており、「最後の小説」あるいは「後期の仕事(…

哀愁のサッポロファクトリー

札幌市がバブル経済の中で再開発がどんどん進んでいた1980年代から1990年代にかけて、その象徴だったのが、豊平側左岸と創成川東側の旧永山邸周辺の開発。ホテルとマンションが建ち、それぞれ成功した。都心部から近距離にあるにもかかわらず、創成川東側の…

札幌の雪道

今年、札幌の北部は異常な寒さに見舞われ、年末から年明けにかけて毎日雪が降り、2月の一番厳しい時期を前にすでに根雪がしっかりと固まってしまいました。 この1月4日に亡くなった、いなむら一志がやっていたコンサートやアルバムのヒート・アイランド、熱…

ベックとディラン

1週間のうちにベックとディランを札幌で見ることができる幸運に恵まれた。 ロック・バーのマスターに話したら、ディランは最後かもしれないから行くけどベックはパスと言われた。ディランはスタンディングなのでどうかなと思った。前回来た時の公演はあまり…