黙示録1

 一人のコンサルタントが村に招かれて為になる話をすることになった。漁業を生業にする村で、組合の記念日だった。コンサルの中年男は、集まった漁師と妻たちを前に「この世で一番大切なものは何ですか」と尋ねた。意味が呑み込めず黙っている村人に、詰問調で繰り返した。そして善良そうな婦人を指差し「あなたはどうですか。私は難しいことを聞いているんじゃない」。女は目を瞬いた後、下を向いて黙りこくった。講師はたまり兼ねたように「簡単です。金でしょう、カネ」「この世に一番大切なものはカネです。古今東西、万国共通、昔も今も変わらない真理じゃないですか」と畳み込んだ。
 なおも女に答えを求めた。「奥さん、あなたもお金が一番大切でしょ、どうですか」
 女は慌てて「違います。家族とか、ここにいる人たちとの絆が一番大事です」
講師は、そう言うタテマエでは困ると言わんばかりに「そこんとこを素直に認めてもらはないと、話が進まないんだ」「皆さんもどうですか。お金でしょう。お金があれば、家族も近所の人たちも助けられますよ」
 プロローグが終わり、幸せになるための講話は予定通り進んだ。講話は報酬と拍手を貰って意気揚揚とムラを出ようとしていた。用意された車に乗ろうとした講師を、一人の男が立ちはだかった。