カニづくし

 毛ガニを買って食べる。その行為はなかなか厳粛で、おごそかなものだ。第一に手間がかかる。りっぱな毛ガニを食べやすいようにバラす必要がある。その前に、毛ガニの顔や甲羅をしっかり見て、中身の旨さを創造する時間もうれしい。物言わぬ毛ガニは、黙って座っているが、その存在感はただ者ではなく、カニの王様と言わんばかりの威厳を備える。濃い味は堅い甲殻の他の大型のカニとは比べものにならない芳醇なもので、皿に盛られた脚とか甲羅とか味噌とか、全てはカニづくしのディテールを織りなすための欠かせない部分である。その総体は毛ガニの上から下まで、あっさり系からこってり系まで網羅するイメージを形成する。