『ルポ アトピー患者がつどう温泉 豊富温泉という福音』門脇啓二著(三五館)

アトピー性皮膚炎や乾癬など重症患者たちから「救い」「聖地」と呼ばれる温泉が北海道の北の果てにある。長く北海道でフリーライター経験を持つ著者でさえ驚いた「知る人ぞ知る」豊富温泉。そこになぜ人がつどうのかを丹念に探ったルポ。
・読むとアトピーや乾癬という難病に苦しむ人たちの本音がよく伝わる。彼らが奇跡と感じる豊富温泉のリアルな体験を、患者ではない第三者の著者が虚心坦懐に耳を傾け、再構成することでひとつの事実が浮かび上がる。温泉の効能は医学的には解明されていない。しかし、患者たちの苦しみの末に見出した希望が確かに存在する。
・やはり患者の話や書物で記録された闘病経験をもとにしていながら、普遍性をもつノンフィクションとして成立させたのはフリーライターとしての著者のスタンスと抑制した書きぶりにある。
・皮膚病にそれほど効能のある温泉ならば、なぜ世間の常識とならないのか。ステロイド投薬を基本とする現代の主流派の皮膚病治療と温泉療養が相反するからだろう。法外な料金を取るアトピービジネスなどが横行する中で、豊富温泉が患者本位の受入体制を備え、理解を示す医者や患者の組織とも連携しながら、脈々と続いていること。そこに「主流ではないもう一つ別な川が流れている」とのジャーナリストの価値観が本書を貫いている。
アトピー性皮膚炎や乾癬の患者さんたちにはもちろん、皮膚病の門外漢の人たちにもぜひ読んでもらいたいし、大きな意味で現代医学、医療現場を考え直す一助にもなると思った。
2014年10月2日刊、四六判229ページ、定価1512円(税込)。