2017 今年読んだ小説ベスト3

 遅まきながら2017年のことを思い出しています。2017年は、「失われた世代」の女王、ガートルード・スタインを3冊読んだ。また、格闘技など独自の世界を拓く増田俊也の小説、ノンフィクションも3冊読んだので、これも読まずにはいられない気持ちにさせた。ついでにピンチョンの探偵小説もつまんだ。

1.三人の女(中公文庫版)G.スタイン/富岡多恵子

 本文は文庫本で310ページほど、文字が小さく(たぶん9ポイント)、分量的にはかなり多い(1ページ43字×19行=437字)。「お人好しのアンナ」、「メランクタ」、「やさしいレナ」の三つの中短編によって描かれた米国で働くドイツ人の移民や黒人の下層の女性たち。
 全体が口語体で書かれて決して読みやすいものではない。嵐のような会話シーンがあり、句読点が少ない。
 ユーモアを交えながら、ほろ苦い後味を残す彼女たちの酷薄な運命は、楽しいものではないが、困難にもかかわらず、読ませる。読者の心をを引き込んで決して離さない魅力に溢れている。スタインの力技も凄いが、同じ詩人の富岡の訳がすばらしいと想像させる。

2.北海タイムス物語 増田俊也

 北海タイムスは実在の新聞社で、なんと1887年に創刊され、1998年に廃刊されている。バブル絶頂期に入社してきた主人公・野々村が他社とは全く異なる低賃金、重労働に耐えながら、新聞と会社を愛する先輩、同僚たちと交わす青春の日々を描いた感動作。
 なんとも変な世界なのだが、ほぼ著者の実体験と重なる自伝的な小説であり、実際の新聞がどう成り立っているのかを記者ではなく、新人整理部員という編集の立場から見せてくれる。そのリアルさがこの青春感動作を支えている。ただし、帯の「会社の、愛し方、教えます」は余計。

3.LAヴァイス T.ピンチョン/栩木玲子・佐藤良明訳

 現在80歳となるアメリカ文学の巨匠が72歳の時に書いたというから驚きだ。端的に言えば、探偵小説。長大で難解な他の代表作に比べ、読みやすくフツーの小説として面白いと評されているようだが、初めて巨匠の作品を読む人にとってはかなり長大で、難解だ。
 60年代から70年代に花開いた西海岸のピッピー文化と管理社会への暗転を背景に、ロサンゼルスのマリファナでラリった探偵が次々に起こる殺人や失踪、偽装死亡と蘇りなどの謎を暴き、その奥底に横たわる警察権力の腐敗、白人至上主義などアメリカ社会の病理をクールに批評していく。