広告批評再び、そしてサヨナラ

 物置となっている昔の書斎を整理していたら、天野祐吉島森路子が出していた『月刊広告批評』が大量に出てきた。ついつい年代別に並べると、バブルまっただ中の1989年から終刊する2009年まで約20年分があった。
「ああ困った。これを何とかしないとまたそのまま元あった場所に戻すことになる」とため息をつきながら、表紙を眺めていた。広告批評だから、広告の話が中心のいわば「業界誌」みたいなものだが、そのレンジの広さと思想の深さはただ者ではなく、貴重な方向指示器の役目をしていたのだと改めて思った。
 表紙を彩ったアーチストやクリエーター、コピーライター、芸人、歌手、グループ、詩人、小説家たち。映画や音楽、写真、文学といった雑多なジャンルから流行モノをピックアップして批評する。いわば野次馬のスタンスで何にでも飛びつき、「広告SMAP」というような特集を組み、世間の目線をちょっとだけズラす。ある時期、実に見事な手際で世の中を切り、すぱっと目で見て分かる形に読者に投げ返してくれた。
 あんたたちが毎日見ている風景って、もしかしてこんなんじゃない…。そして読者もいろいろ考えた。いや、もっといいのあるよ。てな感じ。
 『月刊広告批評』自体は1979年に創刊され、だいたい7月と8月が合併号で出ていたから、年間11冊。2000年代に入って、カンヌで開かれていた「世界コマーシャル」祭りみたいな催しの優秀作品をCD-ROMに収録し、11月号に付録として同封していた。これが当時は珍しく面白かった。いわゆる三媒体(電波、新聞、雑誌)からインターネットへ広告の中心が移っていく過程で、既成のメディア中心の批評は役割を終えた。もちろん、編集長の島森が不治の病に倒れたことが最大の原因ではあるが…。残念。