2017 今年読んだ人文系のベスト3

 人文系と言ってもほとんどノンフィクションの類しか読んでいない。それはそれで面白くてタメになったと思うが、ちょっと情けない感じもしてくる。今年こそはもう少し硬派の本を読んで「教養」を身につけようと思う。60歳を過ぎたら「教養」しか頼りになるものがないことがわかった。

1. 安井かずみのいた時代 島崎今日子(集英社

 売れっ子作詞家として60年代に一世を風靡した安井かずみは、猛烈に働き、本物だけを愛し、男を恣にする奔放な女性として時代の先端を突っ走る。ところが、30代の後半に年下の作曲家で音楽プロデューサー加藤和彦と出会い、結婚してすっかり家庭に落ち着く。
 二人は理想のセレブカップルともてはやされるが、決して自由でない役割を演じ続ける。55歳で死んだ安井。彼女の死後、すぐに再婚、そして離婚し自死した加藤。戦後が右肩上がりだった頃、音楽とライフスタイルをリードした二人の残したものを気鋭のライターが描き切る。


2.ロッキング・オンの時代 橘川幸夫晶文社

 1972年に創刊されたロック雑誌『ロッキング・オン』をつくった4人。その1人が著者で、激動する社会を背景に揺れ動く当時の思いをありのままに証言する。著者の本の中で最も共感できた。
 渋谷陽一を中心とする『ロッキング・オン』、あるいやロック・フェスなどに興味がなくても、1970年代の前半という時代をすごくリアルに感じることができる。青春群像を描いたドキュメントとしてもたいへん面白く、一気に読める。
 ただしロックに関しては「バカではない」姿勢が先鋭に出て、その分、すごく理屈っぽく、いわゆるロックファンにはちょっとね…という感じか。てな部分を割り引いても「共感」はビクともせず、すべてそのまま「70年代の青春」として受け入れたいと思った。


3.女子プロレスラー小畑千代 戦う女の戦後史 秋本訓子(岩波書店

 戦後のスポーツであるプロレスは、力道山の活躍によってポピュラーとなったが、女子プロレスというと「キワモノ」的な見せ物のイメージが強く、社会にスポーツとして認知されなかった。
 主人公の小畑千代は、1955年にデビューし、1968年にテレビで蔵前国技館での米国女子プロレスラーとの試合が放映された初の日本女子プロレスラーである。プロレスを通じて「自由な女」の人生を一環として生き抜き、81歳の今なお「現役」だと語る。
 この本、大手書店で置くところに困っていました。スポーツコーナーでもなく、フェミニズム系でもなく、買い取りの岩波だから苦労したと思う。内容からするともっと売れたはずだ。