2016 今年読んだ小説ベスト3

 2016年、今年読んだ小説のベスト3は、前年よりさらに貧弱な感じで、なんかなぁ。さらに恥ずかしい。全部短編集で、全部文庫本になった。

1.女のいない男たち 村上春樹(文春文庫)
 禍福は不倫妻に先立たれた俳優、木樽は恋人を捨てて外国に逃げた男、そして技巧的な生活を送りながら恋煩いで死ぬ渡会、主婦と不倫しながら彼女の語る物語の虜になる羽原、妻を寝取られた傷心を押し殺していた木野、14歳の時に2年間付き合った少女の死を知らされた僕。
 いずれも確かに「女のいない男たち」の深い喪失、ただ祈ることしかできない男たちの悲しみが描かれている。月並みに言えば、男女の仲は小説より奇なりのはずだが、巨匠村上はあえてそこに挑んだ(?)。心に潜むダークな部分への新たな冒険を含め文句のない傑作短編集。

2.ジャンプ 他11篇 ナディン・ゴーディマ(岩波文庫
 人種差別の極限に位置した南アフリカが行き詰まり、アパルトヘイト廃止へ至る前後、大変化に直面した社会の様々な人々の揺れ動く心を描く。そこには恋愛、複雑な人種関係、カラードの夢、白人男性の命の危険、活動家の妻、黒人政府側に身を投じることができない青年などが出てくる。
 これら民衆の心のザラつきは、当地に踏みとどまった著者ならではの世界の感触であろう。人種差別に反対する白人小説家を堅持し、ノーベル文学賞を受賞した希有の存在として光る短編集。

3.ポロポロ 田中小実昌河出文庫
 表題の「ポロポロ」は、「アメン父」などに続く、著者の描く独特の宗教もので、指導者であった父と信者の祈りの世界がテーマ。
 あとの6編は戦争体験に基づく重いテーマを小実昌氏特有の乾いたユーモアを交え淡々と物語る。一見、弱そうに見えて強い兵隊たち。著者もその一人で、死ぬのが嫌だとか、絶対にこんな場所で死ぬはずがないという強い感覚を持ちながら、慢性的な下痢に悩まされる毎日。不条理な死に直面しても激情に流されず、目をぱっちりと開き現実を見つめるフツーの人がそこにいる。