加藤典洋著『日の沈む国から 政治・社会論集』を読んで

 震災後、著者は精力的かつ真摯に新しい社会状況に立ち向かい、常識を打ち破る論考を世に問うてきた。その関心は、広く世界へ、現代思想ニューウェーブまで捉えて、なおも増殖を続け、次のテーマに目を遠く投げかけているようだ。
 正直言ってこの辺で、読む方の限界も感じつつ、しかし、スリリングな論理の飛躍、遠くに遠くに行こうとする発想、そしてこちら側に帰ってくる時の爽快さは日本の現在の批評では群を抜いている。
 本書は、原発問題を論じた『世界が永遠に続かないとしたら』、平和憲法を論じた『戦後史入門』のフォローをする内容で、著者の独自の見解への疑問や批判に応え、他の論者、領域との連帯、問題意識の共有を確かめるものとなっている。目に触れた範囲では、ニューヨーク・タイムスにコラムを掲載していたのは知っていたし、日本の新聞に掲載していた評論も幾つかは見た記憶がある。
 という経過から、主要な論点は、脱原発に向かう社会認識の原理として「有限性」の思想を提起し、成長を続ける無限性をベースに構築された産業社会の限界を改めて確認している。また、戦後の憲法のあり方、平和主義の空洞化(ねじれ)を指摘し、国連中心主義に基づく平和憲法への改正を主張する。
 いずれもあの日(東日本大震災福島原発事故)から、日本社会は一変したのであり、その結果を受け止め、原因を究明し、そして未来をつくる思想を考え直す取り組みがずっと続けていかなくてはならず、加藤氏の一連の仕事からは目を離せないし、精読する姿勢を崩せない。
 あの日(東日本大震災福島原発事故)から、日本社会は一変したのであり、その結果を受け止め、原因を究明し、そして未来をつくる思想を考え直す取り組みがずっと続けていかなくてはならず、加藤氏の一連の仕事からは目を離せないし、精読する姿勢を崩せない。
 2016年8月4日岩波書店刊、評論、四六判、296ページ、定価2160円(本体価格2000円)。