2015 今年読んだ小説ベスト3

 2015年、今年読んだ小説のベスト3は、それほど読んでいないのに無理に選んだら、ちょっと恥ずかしい(図書館から借りた本も動員)。もっと小説を読まないとダメだよね。

1 霧(ウラル) 桜木紫乃
 昭和30年代から40年代、国境の町・根室を舞台に海の向こうの利権や政治をめぐって蠢く男と女たち。没落しつつある名家の3姉妹と北方四島からの引き揚げ者ら影のある男たち。これ以上ない物語の場所、登場人物たちを濃い霧が包む。タイトルルビのウラルはアイヌ語の霧らしい。国籍を持たない北方の少数民族の出身者も重要な役回りを果たすからそうなのだろう。
 主人公の珠生は地方の旧家に生まれながら花柳界に身を投じ、アウトローと添い遂げ、男が愛人と殺されても「姐さん」の意地を貫こうとする。
 珠生を中心に名家の3姉妹がそれぞれ異なる生き様を通して家や男を守ろうとするが、しだいに自分の生き方、世界を見つけ、その愛憎、欲望が小説に重厚な彩を成す。すべてが霧の中で営まれる性と死の物語である。

2 キャプテンサンダーボルト 伊坂幸太郎/阿部和重
 堅い絆で結ばれたかつての野球少年がそれぞれに問題を抱えながら偶然に出会い、恐ろしい細菌兵器による世界同時多発テロ事件に巻き込まれるが、復活した友情が人類の危機を救う冒険活劇。
 野球少年時代から12年ほど経った30代ちょっと前の男たち。それぞれにトラブルを抱え、ぱっとしない仕事にしのぎを削る。主人公の相葉時之、井ノ原悠、父の謎の死を追う桃沢瞳、元ヒーローで幼女暴行の汚名を着るレッドサンダーこと赤木駿。彼らがすさまじい殺人マシーン銀髪の怪人と戦いながら、憧れの「サンダーボルト」=正義の味方を演じ切る。

3 定本荒巻義雄メタSF全集第1巻 柔らかい時計 荒巻義雄
 北海道在住のSF作家の初期作品を収録した7巻本の全集の第1巻。1970年〜72年に発表された作品群は「メタSF」と呼ばれる新しい流れを実践するもので、批評家として世に出た作者の面目躍如たる内容をもつ。
 表題の「柔らかい時計」サルバトーレ・ダリの有名な作品をモチーフに「時間に取り憑かれた」作者の思弁が縦横に語られる。他の作品も同様だが、外宇宙から内宇宙への探求、フロイトなどの心理学の導入、カントやニーチェ哲学への共感など、とにかく現代人文理論の果実をいかに小説に適用するか苦心の作品群だ。