南三条交番3

 頼りになる兄貴みたいな存在だったが、初夏のある日、突然いなくなった。そういうヤツは、何人もいて「軍人」になったと囁かれた。サークルで話題にするのもはばかられる雰囲気があり、家の事情により遠くで働かざるを得なくなったとだけ、古参の部員から知らされた。
 そして夏が過ぎ、秋になって学園祭のシンポに姿を現した彼はまったく見違えた。顔つきの精悍さはともかくすっかり近寄りがたい殻ができており、表情から窺い知れない不吉なオーラを放っていた。
 彼を知るサークル員は「やっぱり軍人は違うな」と褒めそやしたが、杉山はピンとこなかった。レールに耳をつけてじっと澄ましているのに、列車が来る気配はない。列車は必ず来るとわかっているのに。そういう感じがつきまった。