南三条交番2

 佐々木剛の顔と名前を見るのは40年振りだった。
「1970年から40年も逃げているのか」
 自分のつぶやきに驚いていた。殺人未遂、放火などの罪が大書してあるお尋ね書きには、何処となく頼りなさげで、ボンヤリとした彼の顔が二つあり、まるで整形手術後の使用前、使用後のようだった。
 大学のサークルのキャップという立場の彼は、デモに行っても何かと助けてくれた。羽田空港の途中にある路地で、折り重なって倒れた学生を逮捕しようとした襲いかかった機動隊員の手から守ってくれたのが佐々木だった。「捕れ!」の掛け声でも引っばられそうになった杉山の片腕を逆に掴んで隊列に戻してくれた。その日は、空が妙に高く、自分たちがいかに小さく虚しい存在なあのかばかり考えていて、他のことは何も思い出せない。どこを歩いたかさえわからず、内心怖かったのだろう。