恋の魚

 有名女優の12年ぶりの主演が評判になった映画を見ていたら、急に馬鹿らしくなった。でも彼女、魚のことを思い出させるきっかけをもらった。
 逢った瞬間、惹かれたが、最初から別れる運命にあった。それなのにのめり込んで、傷つけあい、互いに逃げた。
 あの映画は、タイが舞台で、実に日本人のビジネスマンや破天荒な女たちに都合よく描かれていた。時代は、ベトナム戦争終結したサイゴン陥落のあたりだから、バブルのずっと前なのにバブルの真っ最中に感じた。たぶんアジアではそういう時間が流れ、たゆたうていたのだろう。
 さて、恋の魚である。彼女は、魚のように泳いでいた。男たちの欲望の海を、華麗にさりげなく。心は渇いていたが、皮膚は濡れていて、艶かしい感じ。男たちは、みな紡錘形の宇宙を共有していたが、もちろん幻想だった。
 魚の彼女が恋したのは、漁師出身の男で、危険なオーラに満ちていた。宇宙のこと以外、顧みなかった。
 魚は彼女のコードネーム。漁師は危険なカード。恋したのはオレ。三角関係の果てに見た夢。恋の魚はついに幻に終り、一人になった。以来、紡錘形の夢は見ていない。