ホスト経験あり3

 イケメン男は、低い声で話し続けるのをやめようとしない。そのリズムは、抑揚が少なく不愉快なものだった。
 回りのことに飽きるとしだいにモノローグになっていく。自己言及的な言辞ほどスキャンダル耳をくすぐるものはない。
「橋下なんて口先ばっかりでさ。オレはホストになるんだ、なんて言ってたけど、何やってんだ」
 イケメン男のマグマが噴き出る。熱くてドロドロの妬みや怨み、自己顕示欲、あらゆる劣情の源にある池が煮えたぎってどこかにはけ口を求めている。周りはさらに引いた。
 デブ女は、静にうなずいている。「そうよ。あいつはダメだった」
「オレはホストもやったよ。橋下なんかにできるわけないって。ルール守れないし、センス悪いし。ブランドだって全然知らない」
「カッコつけてただけさ」
 イケメン男の噴出は続くが、「ホストをやってた」以外にもはや聞くべきものはなかった。
「この辺で降りるか」
 二人はそそくさとJRをあとにした。