マーケティングの勝利

 彼女たちは男との別れ方について熱心に討論していた。「いきなり路上で別れるってしゃべるオトコってどうよ」「サイテー」
 中心のカノジョは、手元の本が開きっぱなしになっており、就活のためのビジネス教養本の中身が丸見えだった。マーケティングとは何かを語ったページはあちこちマーカーでラインが引いており、アイドマの法則とか、マーケティングの4P(要素)、その用語とかが並んでいた。
「二コ上と下なら合うけど、一コだったら全然ダメ」「ケンカばっかり」
 無視するように、中心のカノジョは「就職してダメだったら別れるわ」と断固とした口調で言い切った。「何が」「収入だね。第一に」「収入いいヤツじゃないとね」「トーゼン」
ある流通関係の会社で今度マーケティング大会をやる話を聞いた。カノジョのマーケティングと世の流れは完全にシンクロしており、勝利は目前だった。肉食の女性VS草食の男性という図式はすぐにイメージできた。
 マーケティング大会のゲストを頼まれた先生によると、いろいろな活動をやっている会社を呼んで発表させ、論評を加え、審査し表彰までしようというのだから大変なものだ。こうした大会とオトコと別れる話で盛り上がるカノジョたちに通底するものは何もないが、ひとつだけ言っておきたいのはマーケティングの勝利であり、勝つための課程がマーケティングを不可避とすること以外にありえないからだ。