ユウちゃんの話 わがままYOU

 確かに私は聞いた。ユウちゃんがユウスケかユウコか、あるいはまたただのYOUなのかわからなかったが。
「ユウちゃんなら全くわからん。この間電話くれっていうからしたら全然出ないの」
「ああ、そんなのいつもだよ。四人でメシ食ったの。当然ワリカンと思ってレジ行ったら、アンタ働いてるんだから払ってだって」
「オレら学生ってぇの忘れてんだよ」「いくら?」「八千円」「痛いな」「痛いよ」
 若い男がボリュームかげんしないでしゃべってた。男たちはユウちゃんのことに集中しているから回りにいる人間は死んでいた。
 リセットしようかと思ったが、ハードディスクがクラッシュしたら終わりだし。つまらない心配が頭をもたげた。
「ユウちゃんの友だちもひどいな。あいつエンコーしてんだと。あの顔で」「ホントか」「いくら?」「千円か。一万円じゃ高すぎだ」「誰が出すか」
 ユウちゃんは女だが、男でもある、らしい。
「ウチに来たんだよ」「いつ?」「まだオトコの時だよ」「じゃ高校の時か」「夕方になったから、家で帰ってもらえっていうから、オレ反抗してさ。何で帰んなきゃなんないんだ」「泊まったのか」「オレ甘いんだよな。泊めたんだ」「あいつドロボーだぞ。バカだな」「帰ってからチェックしたけどね」「二度とウチになんかあげるかよ」
 二人の憤懣は止むことなく声高なシャッフルが続く。夏の雨のように疳にさわる。ポアしようか。うるさい!と一言叫べばロールプレイン・ゲームはリスタートしてしまう。そうだとしても終わりにすべきだ。
 ユウちゃんには悪いが……。ところでユウちゃんは単にわがままなオカマか?それとも差別に耐える性同一性障害者なのか?
「ユウちゃんは汚くないよ。見た目はきれいじゃないか。問題はココロだよ」「おっそろしくダークなんだ。まずきたねぇんだな、カネに」
少年たちの表情は誰かにせかされているようにトンガリ、機会みたいに動く目はうつろだった。外部の何かに備えて臨戦状態の記号をまとい、電車のちぎれ飛ぶ風景に向かって挑む犬を演じていた。
 ユウちゃんがもしこの場にいて少年たちをいたぶりしまいにポアすれば、無言の観客たる我々死者はたちまち生き返り、いつもの道化に戻れるのに。
 二度目にユウちゃんに出会った時、ユウちゃんはYOUちゃんになっていた。巨乳のAVアイドルとして数枚のDVDを出しているYOUちゃんは、とてもきれいなヒトで、AVアイドルとして成功はうなずけるものだった。2ちゃんねるでは、どんな風に語られているのだろうか。アマゾンから注文するのはちょっと待とう。もう少しYOUちゃんとの再会の余韻を楽しみ、気が熟するのを待つことにする。相手はデジタルのデータなのだ。情報が劣化することはないのだから。